November 2002


西尾維新『クビシメロマンチスト
西尾維新『クビツリハイスクール
東野圭吾『探偵ガリレオ
舞城王太郎『煙か土か食い物

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063西尾維新『クビシメロマンチスト』(講談社)
★★★★★

「そんな馬鹿らしいもん信じてんじゃねーよ。
十万回に一回しか起きないことは一回目に起きるのさ。
一番最初に会った相手は百万人に一人の逸材なのさ。
確率は低いほどに起きやすい。
《統計》? くだらないくだらない……
奇跡なんて一山いくらの二級品だってのにさ」(P.365)

 ううむ。びっくり。

 とてもクビキリサイクルの作者の筆とは思えない(そして、続編とも思えない)作品だ。とりあえず、前作よりは遙かに論理的な解決編に素直に拍手。

 無論(という言い方は作者に悪いが)、御都合主義や矛盾点がないわけではない。というより、突っ込み所は全編にまんべんなく織り込まれている。しかし、戯言使いのパワーと作者の若さで強引に押し切っているので、まあ文句はほぼない。

 ほぼないということは多少はあるということで、一番言いたいのはやはり『いーちゃん』、キャラ違いすぎ、というところ。前作ではそんなに頭良くなかったろ、君。

 まあそこは作者がパワーアップしているということにしておいて。事件自体はオーソドックスな作りで犯人も想像付くんだけど、この落とし所には気付かなかった。ああ後味悪い。でも好きだからいいや。

 もう持ってけ泥棒、って気分。色々な意味で悔しい。 to top



064西尾維新『クビツリハイスクール』(講談社)
★★★★

妄想力すらない根暗って、しかし生きてる意味とかあるのだろうか。(P.111)

 ふうん。いい具合にリミッターが外れたようだな、この作者。密室本で番外編だからか。だったら残念だが。

 邪推はともかく、三作目にしてようやく冷静に西尾維新のことを評価できるようになったわけで。やっぱりクビキリでは猫かぶってたみたいにゃー。

 おっと。つまりまあ需要と供給のバランスがいいんだねこの人は。自分が作者で読者みたいな。マスターベーションが商売になるって世の中素晴らしい。あ、考えてみると普通か。

 で。もちろん今回のメイントリックは登場人物表。突っ込んで損した。首吊りにしても密室トリックにしてもそうだが、正攻法すぎて突っ込めない。有栖川の短編より遙かにマシってことで。白旗。 to top



065東野圭吾『探偵ガリレオ』(文藝春秋)
★★★☆☆

「一瞬かな」
「それほど長い時間を必要としないことはたしかだろうな」
 すごい殺害方法が登場したものだと、草薙は頭を振った。(P.191)

 人を殺害するための凶器を謎の核としたミステリというのは、昔から色々書かれてきた。この世界にある数多の「もの」は、ほぼ例外なく凶器になりえる。その中から一見して凶器とわからないようなものが選ばれ、ストーリーに組み込まれるのだ。

 この作品も、そういった「謎の凶器もの」の部類に入れることが出来るだろう。しかし、罪を逃れようとする犯人が凶器を(日用品に紛れ込ませるなどして)隠すという「謎の凶器もの」の動機付けは、この作品にはほぼ当てはまらない。この作品のサプライズは、「まさかこんなものが凶器に」ではなく、「まさかこれを凶器として使うとは」なのだ。

 分かりにくい違いだが、前者は「凶器の意外性」自体が焦点となっており、後者は「殺害方法の意外性」が焦点となっている。犯人は凶器を隠すのではなく、殺害方法を隠す(というより、一般人の知らない殺害方法を使う)のだ。

 だから、この作品に登場する被害者は、みな焼死とも爆死とも病死ともつかぬ、奇妙な状態。そして、探偵役の物理学科助教授、湯川学は、それらを自らの博学でもって他殺(或いは自然現象による被害)状態と断定し、同時に犯行可能な存在も特定する。読者はただ、彼らの軌跡を追い、解決編に納得させられるだけである。正直、はあ、そうですかとしか言いようがない。

 まあしかし、これをそういう作品だと割り切って見た場合、そこに不満は残らない。エンジニアの経歴を持つ作者ならではの作品といえよう。 to top



066舞城王太郎『煙か土か食い物』(講談社)
★★★★★


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