September 2002


森博嗣『赤緑黒白

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059森博嗣『赤緑黒白』(講談社)
★★★☆☆

「普通じゃない。そう、誰だって、普通じゃないわ。
普通っていうのは、つまり平均でしょう?
平均したものは、シーソーの中心に来る。
だけど、そこには誰も乗っていない」(P.193)

 Vシリーズ、堂々の完結作品。……の割には、あっさり目のテイスト。

 今回はメインメンバーの4人も、サブキャラの面々も、特に活躍らしい活躍をしていない。ただ皆、日常通りの生活を送り、日々は何事もなく過ぎ去っていく。起こる事件にはハウダニットの要素が殆どなく、よって解決も犯人が指摘されるのみ(1つ、物理トリックがあったが、特に話題にすることもなし)。カタルシスとは無縁の物語である。この空虚な感覚は、そう、『絡新婦の理』のときに感じたものと同じだ。何かを語ろうにも、語るべき対象が存在しない。

 ただ1つ、ラストシーンについては、意見もある。ネタバレを大いに含む形でしか書けないので、別ページにリンクを張ることにする。

赤緑黒白ラストシーンについて

 しかしまあ、完結させたことには意味がある、と思う。このいつまでもだらだらと続けられそうな物語を、曲がりなりにも完結させた。終われば何でもハッピーである。S&Mシリーズの終わり方に不満があった(というより、終わらせていない)分、今回はちゃんとしたラストに見えて良かった。

 総評としては、S&MシリーズよりもVシリーズの方が私としては好みだった。本格としての出来は明らかにS&Mシリーズの方が上だが、登場人物が少ないため、展開がもたついてしまっていた。Vシリーズではデフォルメされた多くの登場人物が所狭しと動き回ったせいで、読みやすくテンポの良い作品が多かったと思う。作者のメインの狙いが本格にないことがわかった以上、後者の方がより向いていると言えよう。

 次のシリーズ(あるなら、だが)では、SFでもファンタジーでも登場人物が20人いても良いから、もう少しロジックを前面に押しだして欲しい。 to top


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