091西尾維新『ヒトクイマジカル』(講談社)
★★☆☆☆
「あれ? ひょっとして私、このまま生きてたら死ぬんじゃないの?」
(作者あとがき)
乗りに乗っている西尾維新の新青春エンタ、戯れ言シリーズの新刊。
細かい突っ込み所は置いておいて、結論から。
駄目。★2つ。根拠……ミステリじゃないから。以上。
この人の作品の最大の魅力は、最近流行りのキャラ萌え&オタク的ガジェット過多なアニメ調物語と本格ミステリ(風スピリット)の融合度の高さにあると思う。それなのに、話数を重ねるごとに前者の比率が上がっていく――即ち後者の比率が下がっていく印象があって少々悲しかったところに、今作で止めを刺されてしまった感じ。弱ったことに、仮にもミステリファンとしては手放しで喜べなくなってきたのである。
確かにクビシメロマンチストで殺し屋一族なんて設定が投入された辺りからその片鱗は窺えたのだが、密室本である意味番外的扱いなクビツリハイスクールはともかく、サイコロジカルではちゃんと謎→捜査→推理→告発というミステリコードを踏襲していたので安心していたところにこれである。バトルが読みたきゃ皆な富士見ファンタジア買うって。安いから!
いや、勿論ミステリ的なサプライズが全く用意されていないというわけではない。しかし400ページ読まされた上での解決編があれだけ(無論長さのことではない)では拍子抜け。しかも想像付くし。
というわけで、ミステリではない以上評価はその他の部分のみに委ねられるんだけれども、例えば普通のエンタテインメントとして見ても、ちょっとバランスが悪いとしか言いようがない。たらたらと延々続く一人称、何の事件も異常事態も起こらないままひたすら繰り返される日常描写は、後半のカタルシスを鑑みた狙いとはいえ、何とも冗長。凄惨な惨劇シーンとその後の青春シーンはまあ見所なので良しとして、単独捜査が始まったと思ったら、いきなり登場の
西東天に喰われ、そのままずるずると
ラストバトルへ……。この配分はどうかと思う。例えば前半にもう少し波乱を起こすとか、せめて謎の一つくらいは提出しておくとか……。作者はそんなに
春日井春日を出したかったのか?
まあ今回は波乱含みの展開への繋ぎの話ということで、次作では元に戻っているかもしれないので、そこに期待しつつ待つことにしよう。
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092森博嗣,阿竹克人『アンチ・ハウス』(中央公論新社)
★★★★☆
093西尾維新『ダブルダウン勘繰郎』(講談社)
★★★☆☆
主要なる登場人物、その一人は、探偵を志す者。
その一人は、かつて探偵だった者。
その一人は、かつて探偵を志した者だ。(P.9)
自らの作品を流水大説(小説ではなく)と名付け、キャラと設定とよくわからないセンスと探偵趣味を大量に垂れ流した(誉め言葉)メフィスト賞作家、清涼院流水。彼の書く大説に登場するJDC(ジョン・ディクスン・カーではなくジャパン・ディテクティヴ・クラブ)の存在する世界設定を下敷きにした、彼へのオマージュ作品シリーズ(?)、JDCトリビュートの第1弾。筆者はこれまた、キャラと設定と富士見ファンタジア的センスに探偵趣味を絶妙にコンビネートして戯れ綴ったメフィスト賞作家、西尾維新。さて、この二人の組み合わせは裏表紙の煽りのように「無限大」となるか?
まあ何というか、可もなく不可もなく、だよなあ。前半を読んでミステリにはなりえないとわかった時点で結末に期待するのを諦めたせいか、後半の展開はまあまあ面白かったし。かといって、手放しで誉めるほどの大技も使われていないし。せめて
ブラックジャック勝負のタネ(オチではなくその前段階)くらいは何らかの解釈を付けて欲しかったし。あ、勘繰郎くんの○○には特に意味はないってことでいいのか謎。
作中の探偵論はオマージュっぽかったから良しとして、JDC自体はとことんコケにされているのね。本社ビルの真ん前であんな大騒ぎがあったら、せめて誰か様子を見に来るとかしないか。君らそれでも探偵か? バン強奪の時点で人をよこしてりゃ、それでほぼ解決だったのに。まあそれを言うなら、怪しげな車(
犯人の名前書いてあるし)がビルの側に停まっていたり、双眼鏡でビルを覗いている奴がいるのを放置している段階で既に無防備すぎなわけだが。さらに言ってしまえば、その段階で事件解決しては主人公の出番が無くなってしまうから無視させようとするのも何だか作者がアレなわけで。
回りくどくなった。一番言いたいのは、天下のJDC(という設定)に対する犯人があんなのでいいのかってこと。密室卿とかビリオンキラーが凄い犯人だなどと言うつもりは毛頭ない(少々違った意味でエキセントリックではあるが)が、それにしても今作の犯人は曲がりなりにも
探偵たちを大量に殺害した犯人なわけで、アンチ探偵として、もう少し強敵っぽく描かれていれば良かったかと思う。
でも、まあこのページ数だし、このページ数にしてはよく纏まっているとはいえる。さらっと軽く流して読ませるには、これぐらいの物語で丁度いいのかもしれない。何だかんだ言いながら、清涼院流水の入門書としても、西尾維新の入門書としても、成立してしまっている、ような気もする。そういう意味では、この企画の意義は十分に果たされているのだろう。
否、JDCトリビュート企画、この後にまだ舞城王太郎や大塚英二が控えているのだ。結論付けるのは早い。差し当たって、その導入としてはそれなり、単体作品としてはやはり可もなく不可もなく、という感想を出しておくとしよう(この企画、作品間の繋がりはまるでなさそうなんだけれどね)。
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094太田忠司『追憶の猫』(実業之日本社)
★★★★☆