127はやみねかおる『あやかし修学旅行』(講談社青い鳥)
★★★☆☆
いや、荒れているっていうのは、人間が見た感覚だ。
見方をかえれば、屋根が落ちた家も草だらけのたんぼも、
ゆっくりと自然に帰っていってるように見える。
そこには、安らかな静けさがあった。(P.235)
講談社が力を入れている児童向けミステリの先駆け、はやみねかおるの夢水清志郎シリーズ最新作は、亜衣たちの学校の修学旅行が舞台。様々な謎を秘めた村への道中でおこる、これまた様々なハプニング。そして、修学旅行を中止しろという脅迫状を突き付けた「鵺」の目的と正体とは?
上記の粗筋からも分かるように、本作には数多くの謎がてんこ盛りに詰め込まれており、なかなか期待をもたせる構成になっている。ただ、そのぶん謎一つ一つの掘り下げ方が甘く、全体として急ぎすぎた展開になってしまっているのが残念。
特に「龍神」と「持ち帰るなの石」の伝説、鵺の正体などは、ネタ自体は面白いと思うので、もう少しじっくりと描写して欲しかった。そりゃあ夢水探偵には一瞬で解ける謎かもしれないが、亜衣たちに推理させるなどして、もっとケレン味を出した方がワクワクすると思う。
シリーズもののため、レギュラー登場キャラの数と出番が増えたことも内容が薄くなってしまった一因なのだろうが、そこはそれ、作家のパワーで何とかしてもらいたかった。修学旅行という大きなイベントなので、いっそのこと前後編に分け、それぞれで小さな謎を解くような形にしても良かったのでは?
とまあ、不満ばかりこぼしているが、前半を丸々修学旅行の準備編に充てて入念な伏線を張ったり、途中に修学旅行のしおりをそのまま掲載したり(しかもその中で旅館の見取り図を紹介しているのは上手い)と、アイデアや構成は相変わらず抜群。最後に明らかになる「赤い夢」パートもちゃんと存在しており(実はここが一番の楽しみ)、結局差し引きで次作への期待はしっかり保たれてしまうのだった。
P.S. しおりのバスの席順表。あなたは何人見付けられました?
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128辻真先『盗作・高校殺人事件』(創元推理)
★★★☆☆
推理小説にあらわれる犯人は、最高レベルのIQの持ち主さ。
こんな重要なポイントを見すごすわけがない。
だけど、われわれの日常生活をふりかえってごらんよ。
肝心かなめをど忘れして、滑稽なしくじりをくりかえしているじゃないか。
五十円安い買い物のために、二百八十円のタクシーを奮発したり、
ハイキングに缶切り忘れて、おかずなしのお昼になったり。
ふだんでさえ、こうだ……まして殺人事件のような、非日常的な事態に
ぶつかったら、どんなばかげたミスを演ずるかわからない。
なまじ冷静な第三者の目で見るから、
その失敗まで犯人の計画と買いかぶってしまう。(P.179)
前作、仮題・中学殺人事件で「読者が犯人」ネタを披露した辻真先のシリーズ第2作では、何と作者が犯人……だけではなく、「作者が被害者であり、犯人であり、探偵でもある」という更に高度なアクロバットに挑戦(いや、それでこその続編である)。
もうこの趣向だけで一読の価値あり、といったところだが、もちろん「作中作」としての「ポテト&スーパー」シリーズ続編自体も読み所十分、中学から高校に進学した2人の微妙な関係が微笑ましくて良いね。
で、肝心の「作者3役」ネタの出来については――まあ納得は出来たものの、予想を遙かに上回るというようなものでもなかった。こういう趣向の纏め方としては真っ当というか順当な形に持っていかれており、可もなく不可もなしといった感じ。ただ、大ネタに挑戦し続ける作者の気概は十分に買えると思う。私はこういう大風呂敷を広げるタイプの作家には弱くて、たとえ一作品が転けたとしても、次に何をやってくれるのか楽しみでつい期待をもってしまう(まあその結果裏切られることも多いのだけれどね)。
初版が30年ほど前のものなので、文章表現やセンスがやや古いのは否めないが、ミステリとしては現在でも十分通用する完成度。今まで入手が困難だっただけに、創元での復刻は嬉しい。辻真先ファンはもちろん、本格ファンも抑えておくべきシリーズ。
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