151 有栖川有栖 『モロッコ水晶の謎』(講談社)
★★☆☆☆
人は、親しくなった友人に打ち明け話をするのではない。
このように、通りすがりの者に人生の重さを戯れに吐き出す。
だから、私は火村から聞けない話があるのだろう。(P.225)
火村&有栖の国名シリーズ、待望の最新刊。今回は4編の短編を収録――と思いきや、中の1編は僅か5ページのショート・ショート。よって残りの3編が中編並みのボリュームになっているのだが……
助教授の身代金 | 誘拐もの。どう落とすのかなと思っていたら、成る程こういう技できたか。火村が犯人を特定する推理が面白い。 |
ABCキラー | 古典名作に対するオマージュ。ストレートな展開には好感が持てるが、落ちはいまいちすっきりせず(わざと外したんだろうけれど)。 |
推理合戦 | 上記のショート・ショート。「ペルシャ猫の謎」収録の「猫と雨と助教授と」と同様にボーナストラックかと思いきや、ワンアイデアながら上質のミステリになっている。簡潔で良い。 |
モロッコ水晶の謎 | 表題作である毒殺もの。モロッコのイメージは良かったが、火村の推理が唐突すぎていただけない。水晶がどう関わってくるのか、というアプローチとしては意外といえば意外……かも。 |
一番楽しめたのが推理合戦だったのは、さすがに問題があるかと。犯罪捜査ものとしては面白い作品群ですが、ロジックを期待している私には物足りない。1作品のページ数が多くなるのは構わないので、もう少しじっくりと練ったアイデアで勝負して欲しい。
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152 米澤穂信 『春期限定いちごタルト事件』(創元推理)
★★★☆☆
「本当にお見事。鮮やかな推理。綺麗な証明。
でも、その、なんというか、言いづらいんだけど、
はっきり言わせてもらうとさ。
きみ、ちょっと鬱陶しいんだよね」(P.11)
ぼく、小鳩常悟郎と同級生の小佐内ゆきは、互恵関係にある。お互いがお互いを言い訳に使い、お互いがお互いを盾にして平穏な時間を享受する。めざせ小市民。けれども高校入学当初から、様々な問題に巻き込まれ…… 日常系ミステリの新たな切り口を新鋭作家が描く。
まずタイトルに惹かれる。このタイトルを付け、中身がミステリだった(←ここ重要)時点で、この作品は8割方成功しているといえるだろう。読み終わったあと、タイトルから予想できうる大きさの期待に十分に応えられていると感じたので、結果的には9割方成功。表紙買いしても損はないかと。
内容についていえば、日常系ミステリの中でもとりわけライトな部類にあたる。全体で250頁弱と短く、各エピソードのネタもツイストもごくごくこぢんまりとしたもの。ただ、その分キャラクタは立っているので、読んでいて退屈はしない。個人的に「能ある鷹が爪を隠すシチュエーション」が好きなため、ちょっと贔屓目に見ている部分もあるが、少なくともハッタリは効いていると思う。
ミステリ的に面白かったのは、「おいしいココアの作り方」。でも実は一番好きなエピソードは「はらふくるるわざ」だったりする。
そんなこんなで、本書は「青春」「ほのぼの」「日常系」「まったり」「セカイ系」などのキーワードが琴線に触れる方にはお薦めの一冊だ。あまり急いで読み流さず、かといって真剣に謎解きに取り組んだりもせず、春期限定のいちごタルトのようにゆっくりまったり味わって欲しい。
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