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ドア・ドア


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「いやあ、素晴らしい解決編でした。それではキャストの方々へのインタビューです。ええと、中村さん。本日無事に、本格ミステリ劇、『殺意のドア』、初演を終えられたわけですが、主演の中村さんとしては、如何ですか、手応えの程は」
「ええ。苦労もしましたが、概ね成功ではないかと思っています」
「しかし今回は、本番途中でのキャスト交代や脚本変更など、トラブルも多かったと聞きますが」
「耳が早いですね。でもそれはまあ、良くあることでもありますからね。何とか乗り切りましたよ」
「その辺り、詳しくお聞かせ願えませんか。被害者役の堀井優子さんは入院されたそうですが、役どころに何か問題でも」
「いえ。誤解をしないで貰いたいのですが、彼女は非常に熱心な役者です。ただ、どうやら役に入り込むあまり、その、どうも役と現実の区別が付かないような状態になってしまったんです。我々にはまあ良くある職業病の一つです」
「では、彼女は被害者になりきってしまったと? それで、脚本では戸口で刺されて死ぬ筈だったのに、逃げ出してしまったんですか」
「脚本まで手に入れられたんですか。参ったな。どんでん返しが売りのミステリなんだから、リークしないで下さいよ」
「ええ。それはもう。で、急遽アドリブで彼女を追いかけて部屋に入ることになったと」
「そうです。あの、この辺りはオフレコでお願いしたいんですが」
「承知しています」
「彼女が内側から鍵を閉めてしまったので、いったん舞台袖に引っ込んで、舞台反対側の窓から入ることにしました。勿論、部屋はセットなので、観客席側は開いてますけど、まさか本番中にそこから入るわけにもいかず。幸いにして窓にはガラスが入っていなかったので、カーテンの死角から客に見えないようにクレセント錠を外しました」
「成る程。解決編では彼女が錠を閉め忘れたと説明されていましたが、実際にはそんな苦労がおありだったんですね」
「で、部屋に入ってみると彼女がいない。きっと隠れたんだろうと思いました。階段は張りボテで2階までは続いていないので、奥のドアだろうと」
「でも、ドアは4つありました。中村さんはどうやって彼女の潜むドアを見付けられたんですか」
「どうやっても何も、あのドアは右から3番目しか開きません。脚本に必要なのはその部屋だけだったので、残りは壁にドア枠が貼ってあるだけなんですよ」
「ああ、成る程。そうだったんですか。それで、彼女を追い詰めたと。しかし、思わぬ反撃を受けましたね。お客さんの話では、彼女にナイフで刺されたように見えたそうですよ」
「うまく身体で隠したんですけどね、角度によっては見えたでしょう。まあ掠り傷だったってことで。頭を刺されたときは焦りましたけど。あんなおもちゃの引っ込むナイフでも、力一杯殴られれば流石に痛いです」
「あれは、雷のフラッシュと直後の停電で誤魔化されたんですよね」
「スタッフの機転でね。もうどうしようもないと判断したんでしょうね。照明を消した途端に、それってなもんで、黒子が飛び出して数人掛かりで彼女を袖に連れ出したんです。で、同時に代わりの被害者役を寝かせてシーンを再開しました。あのキャスト交代は、最後の手段でした。できればやりたくはなかったんですが、まあ仕方がないですね。堀井さんには本当にお気の毒です。彼女の早い復帰を我々役者もスタッフも望んでいますよ」
「ありがとうございました。舞台に立って20年という、ベテラン俳優の中村浩二さんでした」
「ああ、くれぐれもオフレコでお願いしますよ、オフレコで」

04/01/14

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