(P.120〜)
「でもな、どう見ても、なにも浮かばんしな。こうかな」
加藤刑事はメモをさかさまにしてみた。そして再び元に戻す。
「もっとわからなくなった」
「あの……」
樫村青年はそっといった。
「今のをもう一度、やってもらえますか? なにかがもやもやっと頭にきたんです」
「あれ? あれあれ……」
樫村青年はメモをじっと見つめた。そして不意に立ち上がると机の上の漢和辞典を取り上げた。
「刑事さん、容疑者について手帳にすべて書き込んであるんですよね?」
「ああ、黒妖斎が穴で見つかったときから、すべてこれにメモしてある」
加藤刑事は背広の内ポケットから手帳を出す。
「ちょっとそれを見せてください。ああ、ここか」
「あれ? おかしいな。正解だと思ったのに」
しばらく考えていた青年は小首を傾げると漢和辞典の冒頭へとページを繰った。
「ははあ、そうか。やっぱり僕は漢字が苦手だから、わからなかったんだな。そうか、ふふん」