067西尾維新『サイコロジカル』(上)(下)(講談社)
★★★☆☆
「あー、でもそれって何かあれだよね」と、玖渚。
「心と脳味噌が違うモノだって考えられてるところが、
なんかいいお話だよね。ファンタジーっぽくて、さ」(P.48)
長い。
これだけの話にここまでのページ数をかけるか。というか、分冊にした理由は? イラスト売りするためか。きっとそうなんだろうな。そして、その読みは正しいのだろうね、きっと。
またぞろ密室かよ、とか、相変わらず天才っぽくない、とか、結局主人公は一人じゃ行動できないのか、とかとか。
それらを含め、約一点を除いて今回の物語は予測の範疇だった。危惧していた唯一の心配部分(上記の一点ではない)は最終章で杞憂だとわかったし。まあその辺り、良きかな。
リアリティないのは既に諦めたからいいが、ミステリパートの方はもう少し強化してくれないものかねぇ。デモンさんの研究内容とか、志人くんとか、引っ張れそうな材料は沢山あったんだから。その辺り、ちょいげんなり。
あと、いーちゃんに一言いいですか。伏せ大文字で行きますよ。
気 付 け よ ボ ケ !
物語全体のラインとしては停滞気味。そろそろ変化球が欲しい。次作はその辺り、期待。
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068西澤保彦『ファンタズム』(講談社)
★★★☆☆
「人間がどんどん沢山……、困る?」
「その分、他のものが、どんどん減る」男は可笑しそうに言った。
「人間の躰を作るために、物質が使われるから、
その分、他のものが減ることになるね。
まあ、そんなのは、ほんのちょっとだけど……」
「人間も、ものでできている?」
「そうだよ」
「動物も?」
「そうだ、石も、木も、水も、空気も」
「じゃあ、人間になっても、動物になっても、木になっても、水になっても、同じ?」
「そうだ、ずっと地球にある。ずっとなくならない」
「死んでも、なくならない?」
「ああ、死んでもなくならないよ」
(森博嗣『そして二人だけになった』 P.395)
ついにこの人もこういうものを書きだしたか、という感じ。
具体的には、サイコパスのエキセントリックな行動原理に基づいた幻想的、且つサスペンス風味の予定調和劇。綾辻行人や有栖川有栖や森博嗣らが、普段のロジカルな作者味をかなぐり捨ててまで通過してきた道である。
これって、何か共通の符合でもあるのかねえ。ミステリ作家たるもの、一度はこの系統の作品を発表しなくては一皮剥けない、とか。
とにかく、ミステリだと思って読むと釈然としなく、ホラーだと思って読むと拍子抜けすることは請け合い。私はこの結果を予想していたため、それなりに楽しめた。メインのネタ自体は面白かったし。同じようなアイデア、昔考えたのを思い出した。
最後のシーンを、ああいう風に結んでしまう辺り、地に足着いてるというか、この人はやっぱりミステリ作家だな、と思う。一安心。
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069霧舎巧『六月はイニシャルトークDE連続誘拐』(講談社)
★★☆☆☆
ライバルは『金田一少年の事件簿』!(講談社最新刊紹介より)
……誘拐ものとしては、金田一少年の事件簿の方がよっぽど面白かったような。
霧舎学園ミステリ白書シリーズ、待望の第三段。
むう。今回は駄目。いつものように開始数ページで唐突に始まる事件が、シリーズ全体に向けた複線とごっちゃになって展開される上、テーマが誘拐のため、殺害トリック・犯人探しといった、核となって物語を引っ張る『謎』の全容がなかなか見えてこない。結果として、全体的に捉えどころのない作品になってしまっている。
毎回挿入されるお遊びの《開かずの扉》研究会シリーズとのリンクも、今回は露骨でうざったい。流石に、メイントリックにまで絡んでくるというのは、やりすぎかと。
シリーズもののネックは、回を重ねるごとに犯人扱いしにくいレギュラーキャラが増えていくこと。だからこそ、「使い捨て且つレギュラーキャラに負けず劣らず目立つキャラクタ」が重宝されるのだけれど(この辺りのテクニックは
西尾維新に軍配)、今回初登場のあのキャラは、どう考えてもレギュラー入り。しかし、何だかな。これ以上探偵役を増やしてどうしようというのだろうか。
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070麻耶雄嵩『鴉』(幻冬舎)
★★★☆☆
「見た目とは別に、裏ではいろいろあるのでしょう。
この鄙びた風景も、単に物質文明の進捗の差ゆえですからね。
人の棲むところに理想郷などあり得ませんよ。例外なく」(P.144)
弟、
襾鈴の死の謎を追い、彼が死の直前まで暮らしていた閉鎖的な村に乗り込んだ
珂允(。旅人と偽り、弟の足跡を追い求める彼の周りで、不可思議な連続殺人事件が起こる。銘探偵メルカトル鮎が導く、驚愕の真相とは。98年本格ミステリベスト10、第1位に選ばれた話題作。
最近はメフィスト賞作家のライトな作品ばかり読んでいるせいか、濃厚でペダンティックな著者の文体が心地よく感じた。相変わらず、ところどころ日本語としておかしい表現はあるんだけれど、鄙びた農村のゆったりした時間感覚がよく表されているのが良い。とち狂ったようなメルカトル・トークも今回は控えめだった。
トリックとしては、素材はありきたりだが、処理の仕方に趣向が凝らされていてオリジナリティとしては十分。どんでん返しも上手く決まっている。摩耶作品ではお馴染みの奇天烈なネーミングも今回は象徴的で素直に上手いと思ったし(てぃがは……まあ)、ラストのカタストロフィも、なかなか。全体的に、よく纏まった作品という印象だ。
ただ、やはりインパクトとしては弱い。読了後に鮮烈なヴィジョンとして残るものがほとんどないのだ。無論、これはそういう作品なので、そのこと自体は悪くない。完成度は高いし、傑作だと思う。ただ、映画、
パニック・ルームの感想でも同じようなことを書いたが、摩耶雄高作品としての期待がこの作品では満たされなかったのだ。
あの『夏と冬の奏鳴曲』を読んだときに感じた、邪悪なまでの崩落感を再び味わいたくて、私は摩耶雄高を読んでいるのだろう。
本を置き目を閉じると、そこにただひとつ残像のように残るのものは、真っ赤な夕焼け空を覆い尽くす無数の鴉。
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