遭遇する事件の全てが不可能犯罪という、徹底したトリック重視のミステリ連作短編集、第2弾。
前作に引き続き、今回も過去回想形式でサム医師の推理が冴え渡る。ボーナストラックに傑作と名高い「長方形の部屋」を収録。
相変わらず面白いのだが、小説としてはちょっとマンネリ化してきた感じ。だが、同じような舞台、同じような面々で、同じような不可能犯罪の短編を10も20も書いていれば、当然起こりうる問題だろう。
もちろん作者もそこは心得ているようで、なるべく新鮮味を出そうと大都会を舞台にしたり、船や飛行機を出したり、バラエティ豊かな舞台設定を持ち出してきてはいるのだが、短編の制約上どうしても不可能犯罪の描写に大部分のページを取られてしまうため、いまいち不発気味だ。これが長編ならば一気に解決なのだが……短編作家というのは辛いものだと思う。
さて、今回も順不同でベスト3を挙げてみよう。
- 無差別犯が相手というのが目新しい「ボストン・コモン公園の謎」
- 凶器に関するある意外な事実に驚いた「食料雑貨店の謎」
- シンプルな状況が実に潔い「八角形の部屋の謎」
どれも不可能犯罪として一級品であり、甲乙付けがたい出来。話題作の「長方形の部屋」は、成る程とは思ったものの、山口雅也のある作品を読んでいたせいか膝を打つには至らず。
しかし、これだけの量を書きながら一定以上の質を維持し続ける作者には本当に敬服する。あまり速読せず、1エピソードずつじっくりと味わっていくことが、このシリーズとの最良の付き合い方かもしれない。
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