注意! | ネタバレはありませんが、本作品に対する先入観を多分に与えうる内容となっております。ご注意下さい。
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豪奢な館に旧知の間柄の男女が集まり、そこで密室殺人が起きる。周到な犯罪計画を立てたのはその中のひとり――ミステリでは手垢の付くほど使い回されたパターンである。だが、通常は事件の発覚と共にあっさり開かれてしまう筈の密室が、なかなか開かなければ? そのワンアイデアから一風変わったサスペンスを完成させたのが石持浅海だ。果たして扉が開かれた先には何があるのか―― 著者初の祥伝社作品。
文学作品というものは大抵において、作中から無作為にでも数ページほどを抜粋すれば、そこに作品の本質が少なからず反映されているものだ。国語の文章問題などが成立するのもこのためで、読書に慣れた人間なら最初の数十ページも読めば読書感想文が書けるし、それが期待できる作品かどうかといったおおまかな印象くらいなら、そのごく一部分から十分に窺い知ることができる。
しかし、ミステリではその法則が瓦解する。どれほど稚拙な文章で、どんなに退屈な展開だったとしても、クライマックスで盛り返せば帳消しどころか、絶賛されるものに成り得るからだ。
それは、ミステリにおいてはその物語自体よりも読了後のカタルシスによりウエイトが置かれることがしばしばあるためで、そのお陰で私たちミステリ読みはどんなに馬鹿馬鹿しい展開や壊滅的な駄文に付き合わされようとも、途中で投げ出さずに最後まで読まざるを得ない。直感的に駄作と思えたものでも、最後の最後で思わぬ名作に化ける可能性が捨てきれないのだ。……まあそういった作品の場合、八割方は当初の読み通り、読了後に窓からぶん投げる結果になるのだが。
さて。そんなわけで、本書は実に久しぶりにラストの展開に唸らされた。とはいえ、途中が特につまらなかったわけではなく、要所要所のポイントをうまく押さえた良作だと思うが、この作品の面白さの白眉はなにかと問われれば、論理の応酬や動機云々よりも、終章そのものであると迷わず答えるだろう。物語のラストにおけるある人物の一見何気ない言動が、この物語のイメージを見事に根底から覆したのである。
実際、解決編である第四章を読み終えた段階では、この作品の評価は★3つだった。それが読了して一気に★2つアップの快挙。たった3ページの終章を加えただけで(無論その展開に至るための伏線は前段階でしっかり張ってあるのだが)、である。これがミステリというものなのだ。
これはもう読んでもらうしかないだろう。欠点としては、女性の描き方が合わない人には合わないだろうというところ、最後にひとつだけ大きな心理的疑問が残る、などが考えられるが、それらとて画竜点睛を欠くというほどのものではない。読んだらすぐネタバレで誰かと本作について語り合いたい。そんな気にさせてくれる見事な作品だ。
石持浅海、私は初読なのだが、正直少し侮っていた。すぐに「アイルランドの薔薇」買いに行かなきゃ。
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戯言シリーズ最終章3部作の2冊目。
ネタバレ注意。
前巻の引きを継いで極限状態から始まる物語。戦闘シーンは相変わらずのグダグダで、まああっさり終わって良かった良かった。その後はいつものマップ移動型情報収集モードに切り替わるも、いーちゃんがあまりにも清々しくて違和感ありまくり、物語も佳境とあってシリアスな雰囲気が全体を包んでおり、ボケキャラも不発気味、といつもの乗りに期待すると肩すかしを食う。某天下の大泥棒が出張ってきてくれるのだけがせめてもの救いか。
十三階段の方も顔触れが出揃ってきて、
その名をサブタイに冠した前巻よりも余程仕事している様子。イラスト見ると眼鏡率高い、というか少なくとも女性はみんな眼鏡。西東天の趣味というよりはイラストレーターの趣味っぽい。するとノイズも女性で、表紙の人は眼鏡ないから男に決定。こんな読みでいいのか?
ストーリー的には二転三転するものの、今の段階ではなんとも言えず。色々とフェイクも混じっていそうだが、確たる傍証は見られない(まあミステリでもないし)。ただひとつ、上巻でも出てきた哀川さん偽者疑惑についてだけは推測しておくと、いーちゃんが今まで会ってきた哀川潤(つまり、読者にとっての哀川潤)はまあ、偽者かな。ひかりさんや友、石丸小唄と、いーちゃんが各々ペアでいるときに哀川さんが登場していない以上、彼女らの前だけに姿を現しているのが本物の哀川潤である可能性が高い。
じゃあ偽者は誰なんだって話だが、上巻で触れられた哀川潤の母親である、西東天の双子の姉ってのがキーか。双子がそれぞれ娘を生んでいたと仮定すると、どちらかが哀川潤でもう1人が偽者ってことになるんではないかと。まあ上記の通りなんの傍証もないため、追究はできないけれど。
さて、ようやく次巻で完結。伏線の全てを拾えるとは思っていないけれど、1冊でどこまですっきりさせられるか、期待。
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